第162章

大島莉理は長く息を吐き、力が抜けたようにソファへ腰を落とした。背中には薄く冷や汗。

濡れた服は肌に張りついて、不快だった。

田中辰哉が低い声で言う。

「……怖いのか?」

「違うわ」

莉理は首を振り、渡された白湯をひと口飲む。張り詰めていた神経が、ようやくほどけた。

「ただ……ちょっと、悲しいだけ」

この世界の夫婦は、みんな同じなのかもしれない。

結婚式でいちばん愛しているときに、誓うのだ。生涯守り抜く、と。

一生。決して揺るがない。

苦しみも病も、二人を引き裂けない――と。

けれど、愛が尽きて、裏切りと欺瞞だけが残ったとき。

かつての恋人は、まるで別の何かに乗っ取られ...

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